コラム:ロシアとコロナ禍〜サンクトペテルブルク・フィルハーモニアの取り組み

 


 

ロシアとコロナ禍

~サンクトペテルブルク・フィルハーモニアの取り組み~

                  文責 齊藤浩一(音楽学専攻二回生)


(サンクトペテルブルク・フィルハーモニア外観) 

ロシアでロシア人の新型コロナウイルスの初の感染例が確認されたのは2020年3月2日だった。それから4月上旬までの感染者数が緩やかな上昇で、死亡例も少なかったことから、ロシアにおけるコロナ禍は世界から楽観視されてきた。また、同年3月25日にプーチン大統領が緊急演説を行い、3月28日から4月5日の間を非労働日とし、憲法改正を問う国民投票の延期、追加の社会経済対策措置を発表。ロシアのコロナ対策は万全と思われた。ところが、5月から1日あたり約1万人のペースで感染者が激増し続け、感染者は65万人、死者は1万人を超えた(現地時間7月4日現在)。

ロシアの古都サンクトペテルブルクにあるサンクトペテルブルク・フィルハーモニアは、1802年に設立された。名門オーケストラのサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団とサンクトペテルブルク交響楽団を傘下におく音楽協会で、フィルハーモニア(音楽ホール)を運営・管理する団体と言えば分かりやすいだろうか。当協会は、サンクトペテルブルク政府令第462番による2020年7月12日までの閉鎖命令等を受け、オープン・フィルハーモニア・プロジェクトを開始し、聴衆との交流、及び音楽教育プラットフォームの構築を試みている。

このプロジェクトでは、主にウェビナー(Webinar=動画を使ったセミナーをインターネット上で実施すること)を活用し、利用者の音楽の知見を広める機会を提供している。

例えば、「リスナーの学校」と題されたプロジェクトに登録すると、無料で音楽学者らによる簡単な授業が提供される。初回のイベントは、音楽学者マリーナ・モナホワによるチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の異なる解釈を比較し、この楽曲の構造を理解する試みであった。また、ポッドキャストでは、音楽学者ジョージ・コヴァレフスキーの「感情の言語としての音楽」というかなり専門性の高い一連の講義、音楽学者クセーニヤ・ヴィストローヴァが案内人を務めるサンクトペテルブルク・フィルハーモニア館内のツアー動画等が公開されている。その他、公式YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/c/PhilharmoniaSPb)では、近年の演奏会から10種類以上の動画や、「ソロ・イン・ザ・オーケストラ」と題された、主に楽団員が自身の楽器や経歴等について話すシリーズ動画等も公開しており、質と量を兼ね備えた音楽教育を利用者に届けたいという思いが伝わってくる。


 (芸術監督:ユーリ·テミルカーノフ)           (副芸術監督:ニコライ·アレクセーエフ)

ロシアでは、「文化機関の問題は、経済を回復するための国家計画に含まれるべきである」とのプーチン大統領の発言を受け、ロシア文科省によって文化関連施設に多額の予算が分配されることが決定している。そのため、財政的な面では安心材料がある。しかし、7月3日にムラシュコ保健相が「コンサートに出掛けたり、普通に働いたり旅行に行ったりする通常の生活は、来年2月まで戻らないと考えている」とインタビューで発言した。どうやら、「本来望んでいたような方法で音楽に接する機会」が失われ続ける日々はまだ続きそうである。こうした状況だからこそ、サンクトペテルブルク・フィルハーモニアの質の高い取り組みは、音楽を欲しているロシア国民にとって、コロナ禍におけるせめてもの僥倖といえる。

      

  (サンクトペテルブルク・フィルハーモニア・ボリショイザール)







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