コラム:人物像から紐解くドビュッシーの音楽

クロード・ドビュッシー(1862-1918)は、20世紀の音楽に最も大きな影響を与えた作曲家の一人である。

では、彼は一体どのような人物だったのだろうか。人間性がうかがえるエピソードをいくつか紹介し、その人柄や内面から彼が生み出した音楽について考えてみよう。

ドビュッシーの性格を一言で表すとすれば、「独立志向」ということになるかもしれない。彼は自由であることに喜びを感じ、あらゆる法則や束縛から自らを解き放とうとしていたのである。ある時、彼はこう述べている。

 

 作品がルールを生む。ルールは作品を生まない!

 

そのオリジナリティから当時の音楽界に新しい風を吹き込んだドビュッシーらしい発言である。

 

ドビュッシーは、斬新で珍しいものや異国の香りのするものなど、様々なものに関心を示した。自分の好きなものを目一杯詰め込んだ贅沢な暮らしを送るために浪費を惜しまない一面もあり、友人からお金を借りては返さなかったというエピソードが残っているほどである。その一方で、ラモーの作品や教会旋法など過去の音楽にも興味を持ち、フランスの伝統から繊細な感受性や貴族趣味を受け継いだ。多彩な魅力を持つ彼の音楽は、あらゆることへの興味を原点として、自由に発展して出来上がっていったのである。

 

また、完璧主義で、作品の創作に多くの時間を費やすという一面も持っていた。完成させた唯一のオペラである《ペレアスとメリザンド》(1902年)は、最初の構想から完成までに実に9年間もの年月をかけたし、代表的なピアノ曲である《版画》は、1890年代半ばごろ着手したにもかかわらず、完成したのは1903年だったという。

それにもかかわらず、彼が自分の作ったものに満足することは滅多になかった。自分の気に入らない作品は早く仕上げてしまいたいが、いい加減なことはしたくない――こうした葛藤にドビュッシーはよく苦しめられていたという。1907年に出版者のJ. デュランに宛てた手紙には、彼の度を超えた完璧主義が顔をのぞかせている。

 

ただひとつだけ付け忘れたフラット記号のために、最悪の破局を想像してイライラしている哀れなあなたの友人のことを思ってくださってありがとう。

 

その一方で、ドビュッシーは絶妙なユーモアも持ち合わせていた。その風刺精神あふれる語り口や、倦怠感すら漂わせた独特のユーモアは、音楽誌上で行っていた評論活動に大いに生かされている。彼に言わせれば、ユーモアとは「人間が神をだますのに用いる矢」なのだという。

 

 

しかしまた、こうしたユーモアは、全ての者を理解し、「他人の身になってみる」姿勢のあらわれでもあった。彼は愛情と優しさ、哀れみを心に秘めながら、子どものような無邪気さと父親のような洞察力でもって世界を見つめていたのである。

 

このように様々な顔を合わせ持った人物だったからこそ、唯一無二の音楽を紡ぎ出すことができたのだろう。その煌めくような色彩の戯れ、そして時折現れる謎めいた響きは、私たちの心を掴んで離さない。

 

 

文責:樽家千晴(ピアノ専攻三回生)



参考文献

・D.J.グラウト/C.V.パリスカ 著『新西洋音楽史 下』戸口幸策、津上英輔、寺西基之訳 音楽之友社、1998

・E.ロバート・シュミッツ『ドビュッシーのピアノ作品』大場哉子訳 全音楽譜出版社、1984

 


参考ウェブサイト(いずれも最終閲覧日20201031):

・歴史上の人物.com「現代音楽の祖ドビュッシーの名言」

https://colorfl.net/debussy-meigen/#i-3

・クラシック音楽・オーケストラの総合情報サイト otomamire「作曲家変人ランキング」

https://otomamire.com/eccentric-composer/

・ピティナ「ピティナ・ピアノ曲辞典」執筆者 : 和田 真由子

https://enc.piano.or.jp/musics/629

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