コラム:F.メンデルスゾーン作曲《交響曲第4番「イタリア」》とその名盤 第二回(全三回)
クラシック音楽には聴いておくべき「名盤」がある。メンデルスゾーンの《交響曲第4番「イタリア」》はいわゆる有名曲の一つで、演奏・録音される機会が比較的多いことから音源の種類も多く、特にトスカニーニ盤を筆頭に、イタリア人指揮者らの音源に名盤と呼ばれるものが多い。つまりイタリア人指揮者達の名刺代わりの一曲とも言えるが、そうした音源は語り尽くされているので、ここでは極めて私的なチョイスにより音源を紹介する。
2.トーマス・ファイ(1960-)&ハイデルベルク交響楽団(録音:2007年)
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ファイはザルツブルク・モーツァルテウム大学等で指揮や古楽を学び、1987年にシュリアバッハ室内管弦楽団を組織した後、1993年に規模を拡大してハイデルベルク交響楽団へと発展させた。日本ではJ・ハイドン、サリエリ、モーツァルト、及びメンデルスゾーン等のレコーディング活動を通して知られ、気鋭の指揮者として話題になっていた。ところが、2014年に自宅で転倒し重傷を負って以降、残念ながら復帰の目途が立っていない。
このコンビの演奏は、常にピリオド・アプローチを採用しているのが特徴である。ピリオド・アプローチとは、作曲当時に使用されていた楽器や演奏習慣を批判的に検証して現代のオーケストラ演奏に反映させることだが、これをどこまで取り入れるかは指揮者や楽団、及び曲によって千差万別であって、その定義は曖昧である。ハイデルベルク交響楽団では、トランペット、ホルン、及びティンパニを古楽器に置き換え、弦楽器はノン・ヴィヴラート奏法(注1)で演奏している。
さて、本来この交響曲は演奏に差が出にくい曲である。スコアに記されている演奏への指示が少ない上に、両端楽章にある弦楽器や木管楽器パートに現れる難所のテンポを無理のないように設定し、アンサンブルを整えようとすれば、自ずと大まかな演奏解釈の方向性が定まってくるからである。ところが、彼らは作品の印象を一新させた。
通常、第一楽章は弦楽器と木管楽器が主体で、そこに金管楽器とティンパニが華を添え、いかにも南国イタリア的な旅情を感じさせる音楽である。しかし彼らの場合、速いテンポを設定した上で、金管楽器とティンパニの音を(一部楽譜に手を加えて)突出させるのみならず、強いアクセントをつけて音をぶつけるように演奏する。また、終結部においては、楽譜に記載のないアッチェレランド(次第に速くなり終わる)を導入して足早に曲を締め括っており、旅情というよりイタリアのお祭り騒ぎの様相を呈している。
第二楽章は快速なインテンポ(一定の速度で演奏すること)で、決して主題を丁寧に歌わせたりはしない。時折管楽器を突出させたりはするが、さらっと流すように進めてゆく。その上、弦楽器のノン・ヴィヴラート奏法によって全体の音の響きが軽く聴こえ、独特な透明感が生まれており、通常の演奏と比較してより爽快に聴こえる。これは演奏時間にも反映されており、通常6分以上の時間が費やされるところ、ここでは5分半もかからずに演奏を終えている。
第三楽章では今までとは異なり、ゆったりとした演奏が展開される。弦楽器と木管楽器、あるいはホルンとトランペットの対話が丁寧に奏され、上品な音楽に仕上がっているため、安心して身を委ねて聴くことができる。しかし、これは第四楽章への布石である。
第四楽章で再び音楽がお祭り騒ぎに戻り、爆発する。彼らは、史上最速のテンポでこの楽章を一気呵成に、そして一糸乱れずに駆け抜ける。演奏時間は4分50秒である。一般的なテンポで演奏している下記の沼尻盤のタイムが5分53秒であることを踏まえると、まさに「過激」な演奏解釈である。
この音源は、第四楽章の過激さばかり注目されがちだが、総演奏時間は約27分と一般的である。つまり、今まであまり聴こえてこなかった部分を浮かび上がらせたり、各楽章の時間配分の変更を行ったりしたことによって、この曲の印象を一新させることに成功したと言える。
楽団公式HP: https://heidelberger-sinfoniker.de/welcome.html
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC619lz3--tUCanrznF3sqZg/videos
(注1)ヴィヴラート奏法のように弦を抑える指を揺らさずに弾くことで、クリアな音を発する奏法。現代の人数の多いオーケストラでも室内楽的な響きが得られる。
文責 齊藤浩一(音楽学専攻二回生)
参考文献
・『メンデルスゾーン交響曲第4番イ長調作品90』音楽之友社、2012年
・ハーバート・クッファーバーグ『メンデルスゾーン家の人々――三代のユダヤ人』横溝亮一訳 東京創元社、1985年

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