コラム:F.メンデルスゾーン作曲《交響曲第4番「イタリア」》とその名盤 第三回(全三回)
クラシック音楽には聴いておくべき「名盤」がある。メンデルスゾーンの《交響曲第4番「イタリア」》はいわゆる有名曲の一つで、演奏・録音される機会が比較的多いことから音源の種類も多く、特にトスカニーニ盤を筆頭に、イタリア人指揮者らの音源に名盤と呼ばれるものが多い。つまりイタリア人指揮者達の名刺代わりの一曲とも言えるが、そうした音源は語り尽くされているので、ここでは極めて私的なチョイスにより音源を紹介する。
3.沼尻竜典(1964-)&日本センチュリー交響楽団 (録音:2012年)
演奏は極めてオーソドックスなものである。故に、カエターニ盤の様に一部の楽器が目立ったり、ファイ盤の様に強烈なアクセントを用いたり、極端に速いテンポ等を採用したりすることはない。オーケストラ全体の調和がとれた、正攻法な演奏である。しかし、ただオーソドックスなだけでは名盤とは言えない。「オーソドックスな」という形容詞は、「新鮮味のない」という評価と表裏一体である。
この演奏は第一楽章からとにかく美しくしなやかだ。楽器間のバランスが絶妙にコントロールされた透明感ある響きと、オーケストラ全体が充実した音を出すことによって生まれる余裕ある迫力が両立している。こうした特徴は、高度なアンサンブル能力と楽団員個々の演奏レベルが高くなければ実現しえない。それらが高い集中力と共に全楽章を通して維持されており、指揮者とオーケストラが中庸の精神を持って楽曲に取り組んでいることがよく分かる。
第二、三楽章の主題の丁寧な歌い方、pp(ピアニッシモ)等の弱音部分における音の充実度とニュアンスの多彩さによる音楽的表情の豊かさは、上記二盤にはない美点である。また第四楽章においては、標準的なテンポながらも、高いテンションと清澄さを維持しつつ、アンサンブルの綻びがないまま堂々と終わる様は圧巻である。
新たな解釈はないが、楽譜にある旋律やフレーズやオーケストラのアンサンブルを慎重に吟味し、音楽それ自体のブラッシュ・アップに成功した演奏と言える。また録音の質も高く、初めに聴く音源として最適である。
日本センチュリー交響楽団は、大阪府音楽団(吹奏楽団)を発展的に解消し、大阪府のオーケストラとして1989年に大阪センチュリー交響楽団として発足したメンバー約50人の中規模オーケストラである。2011年に大阪府から独立させられ、現在の名称になった。
尚、このCDは『レコード芸術』誌2014年1月号において特選盤に選ばれている。
楽団公式HP: https://www.century-orchestra.jp/
終わりに
改訂稿の説明を読めば、この交響曲が完成していないことに気が付くだろう。メンデルスゾーンは通常、作品が出版された時点を完成とみなしており、実際、交響曲の番号は出版順であり初演順ではない。ただし《交響曲第4番》は、改訂のいきさつからも分かるように、本当の意味では完成を迎えていない交響曲である。ちなみに、「1849年のドイツ初演では改訂を加えられた最終稿が用いられた」という説明が、古いミニチュア・スコアや文献等でまれに見られるが、これは誤りであるから注意されたい。
以上、傾向の異なる三つの音源を紹介した。いずれかの音源が、読者諸氏の琴線に触れることがあれば幸いである。
文責 齊藤浩一(音楽学専攻二回生)
参考文献
『メンデルスゾーン交響曲第4番イ長調作品90』音楽之友社、2012年
ハーバート・クッファーバーグ『メンデルスゾーン家の人々――三代のユダヤ人』横溝亮一訳 東京創元社、1985年

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