コラム:ヴォーン・ウィリアムズゆかりの場所、カンタベリー大聖堂
イングランドのケント州に位置するカンタベリーの地には、英国国教会の総本山であるカンタベリー大聖堂が鎮座している。こんにちでは世界文化遺産にも登録され、観光地として名高いこの大聖堂は、実はヴォーン・ウィリアムズともゆかりが深い。1928年に、当時のカンタベリー大主教のために《テ・デウム・ト長調》を作曲しているのである。ここでは、そんなカンタベリー大聖堂の歴史を少し紐解いてみよう。
カンタベリー大聖堂の歴史は古く、1130年に建立された後、幾度か改装や改築がなされている。現在の大聖堂は、全長160メートル、幅47メートルで、中でも1503年に増築された「ベル・ハリー・タワー」は、高さ70メートル以上もあり、圧巻の存在感を放っている。この聳え立つような先端の尖った塔と窓は、「垂直式」と呼ばれるイギリス式ゴシック建築の象徴だ。

カンタベリー大聖堂の外観。
ここでの有名なエピソードと言えば、時の権力者であるヘンリー二世(在位1154‐1189)と政教分離を巡って対立していた当時のカンタベリー大司教トマス・ベケット(1118‐1170)が1170年に暗殺された事件であろう。この死は殉教として扱われ、トマスが聖人に列せられたことから、現在でもこの場所は聖地として毎年多くの巡礼者が訪れている。
「カンタベリー」と聞くと、14世紀にイングランドで書かれたジェフリー・チョーサー(1343頃‐1400)の『カンタベリー物語』を思い出す人もいるかもしれない。この物語集は、カンタベリー巡礼へ向かう主人公が、道中泊まった宿で出会った人たちと、自分が最も面白いと思う物語を語り合い、その優劣を競い合いながら旅を共にするものである。巡礼へ向かう様々な身分や階級の人たちが順々に語っていく様子からは、当時のイングランドの雰囲気が感じられて非常に興味深い。
こうした古くから伝わるエピソードを知ると、神聖で近寄りがたく感じられるかもしれないが、実は現代のわたしたち日本人にとっても身近な存在とも言える。このカンタベリー大聖堂は、映画『ハリー・ポッター』シリーズの撮影地となっているのだ。
ヴォーン・ウィリアムズの《テ・デウム》を聴いたり、『カンタベリー物語』を読んだり、『ハリー・ポッター』を鑑賞したりしながら遠くて近いカンタベリー大聖堂に思いをはせてみてはいかがだろうか。
文責:久行萌梨実(音楽学専攻一回生)
参考文献
・ジェフリー・チョーサー『カンタベリー物語』桝井 迪夫・訳 岩波文庫、1995年
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